井口まみ
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「この国から貧困をなくすにはどうしたらいいのか」宇都宮健児さんのお話は納得でした

untitled 現在日弁連の会長としてたいへん多忙な、宇都宮健児弁護士を迎えて講演会ができるなんて、ちょっとびっくりです。反貧困ネットワークの代表として、共産党市議団の要請に応じて、「反貧困ネットワーク運動にとりくんで見えてきた、貧困の現場と打開の方向」というテーマで2時間たっぷりと話していただきました。180人の参加者で会場はいっぱいでした。

宇都宮さんは見た目ホントに穏やかな、とても「たたかう弁護士!」という感じではありません。でも、もう30年もサラ金、ヤミ金の怖い人たちと対峙してきて、言葉にはつくせない苦労があったはずです。でもサラ金に手を出す最大の理由は生活苦。苦しくてなんとかしたくても、サラ金以外に生きる道がない、そういう人たちの生活を守りたい一心で、何百社というサラ金会社とたたかってきた、その年月を淡々と話されました。法律も変えさせてしまいました。でも、この貧困を根本的に解決しなければ、いくらサラ金と対決していても変わらない、そう気が付いたといいます。

日本は、これまで、「貧困率」を捕捉していませんでした。政府の認識として貧困はないことになっていた。終身雇用で、会社に入りさえすればとにかく生きていけると、企業に国民の生活の維持をまかせきりにして、政治の責任で国民を守ってこなかったために、いざ企業が身勝手な雇用破壊をおこなうと、国民を守れない、そういう政治があらわになったのです。民主党政権がようやく貧困率をだしてみると、所得の分布における中央値の半分に満たない人、つまり平均的な所得の半分も手に入らない人が約16%もいた。これはOECD30カ国の中で、メキシコ、トルコ、アメリカについで第4位。スウェーデンは5・3%ですから、経済大国といわれた日本で貧困にあえぐ人がこんなに多いのは異常だとしか言いようがありません。

貧困をなくすには、やるべきことははっきりしています。働くところを作ること、働いたら生活できる賃金を払うこと、非正規ではなく正規労働者にすること、企業国も社会保障をきちんと支えること、また生活保護の充実、公営住宅の大量供給、医療、福祉の充実などです。これはすべて政治の責任です。そういう政治にするにはどうするか。宇都宮さんは「貧困の可視化」が必要だといいました。おととしの年末の年越し派遣村はその典型例だといいます。テレビを通じて日本中に、「大企業が違法な首切りをして家まで奪って、こんなに困っている人を生み出した」ということが伝わり、それがてこになってたくさんの対応策が打たれました。実際に貧困によって困っている人自身が、勇気を持って声を上げることが必要です。そういう人は「自分のせいだ」と思い込み、胸を張ることができません。でも、悪いのは自分ではなく今の社会の仕組みのせいであることに気づいてもらい、助けてほしいと声を上げることで、政治は動かされていくといわれました。その声を大きくするために、労働組合も政党も市民運動も連帯する、これまであまりいっしょにならなかったところも手をつなぐことが必要だと、繰り返し言われました。

もう1つ貧困をなくすために必要なことがあるという話に胸を打たれました。貧困はお金を与えればなくなるのではない。温かい人の連帯の中で始めてなくなるというのです。宇都宮さんの経験でも、たいへんなサラ金地獄から救い出して、生活保護を受けアパートにも入ることができたのに、その人はぜんぜん嬉しそうでない。アパートにいたらずっと一人ぼっちだというのです。ああ、そうですよね。生活が落ち着いてからが、その人の新しい人生の始まりであり、人間として生きがいを持って生きることにようやく手を付けることができるのです。そこまで支援をしないと、救ったことにならない。あらためて「くらしの相談センター 多摩」の役割を自覚しました。生きる人間の連帯を作る場所にならなければいけないんだなあ。

宇都宮さんのお話で心を打たれたことをもう二つ。1つは、長い目で見て貧困をなくすには教育が必要だといわれました。子どもたちがどんな家庭環境があろうと、学校に行ける、わかる教育を受けられる、このことがその子の代に貧困を引き継がない保障だというのです。もうひとつ、国民が貧困にあえぐようになると、最後は軍隊に生きる道を見出さざるを得なくなる。それを利用して軍隊を大きくしてきたのが世界と日本の歴史だったと。今でもアメリカでは食えなくなれば軍隊に入る、と報道されています。憲法9条と25条は車の両輪だといわれました。

いま、私たちは市民の皆さんにアンケートを配り、回答がどんどん送られてきています。そのなかには、本当に生活に困っている人の悲鳴も書かれています。一人でも二人でもそういう人たちの支援をして、貧困から脱出できるように、宇都宮さんのパワーをもらってがんばろうと思いました。