井口まみ
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ライバルは三谷幸喜さん?!

久しぶりに、芝居を見ました。「国民の映画」という題名です。三谷幸喜さんのならなんでも見たいと思っているので、ずいぶん前にチケットを買ったまますっかり忘れていて、ストーリーも何も知らないままとにかく会場に行ったのですが、作・演出三谷幸喜 出演・小日向文世、段田安則、白井晃、風間杜夫、石田ゆり子など、これは面白くないわけがない。るんるん、という感じでした。

ところが、舞台はナチスドイツの宣伝大臣ゲッペルスの自宅。実在した人物をかなり史実に基づいて描いていて、いかに“扇動しているとわからずに、ヒトラーのやりたいように国民を動かすような映画を作るか”という映画作りをする算段をおこなうのです。最後には信頼していた人間が収容所送りになることを目の前で容認するという結末に、いつものような、たださんざん笑って帰ってくるという舞台とは違う思いを持って、帰ってきました。

三谷さんはインタビューでゲッペルスについて「普通の市民が、たまたま特殊な状態に置かれて狂気に走る」怖さを描いた、と言っています。映画好きのおじさんが、ナチスに入り、のし上がっていく中で、ユダヤ人を根絶するべきと真剣に思うようになってしまう。パンフレットでもどの役者さんも「それは理解できない」といっていました。しかし本当にあったことであり、決して遠い昔のことでも遠いヨーロッパだけのことでもなく、この日本と今に通じる問題です。そこは三谷さんです。ちゃんと笑いのつぼは押さえています。そういう問題を、むずかしくなく、考えさせるように作り上げる手腕に感服しました。

むずかしいことをむずかしくなく、人のこころをとらえて発信する。言葉の使い方がほんとにうまいのだと思います。言葉を操っているというか、言葉がちゃんと役割を果している。そういう才能があるのだと思います。三谷さんと私は同い年。あちらは当然私のことなど知りませんが、その才能がうらやましくて、勝手に「この人はライバルだ」と思いました。敵を知らないとこちらも成長できないわけですが、とにかくチケットは手に入りません。6月の舞台のチケットはあっという間に完売で、入り込む隙もありませんでした。まったくたたかいにならない…。