井口まみ
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憲法の原点を学ぶ

IMG_0373[1]安倍内閣になって一気に憲法改悪が重大な政治問題になっています。自民党の改正草案があまりにも露骨にひどく、これを学ぶ学習会が各地で開かれてますが、この日は、くらしの相談センターが法律相談でお世話になっている、川崎北合同法律事務所が学習会を主催されたので、出かけてきました。

講師は、日弁連憲法委員会事務局長の藤原真由美弁護士。1時間ほどの話で、ほんとにさわりの部分だけだろうなあと思いましたが、それでもとてもたくさんのことを考えました。

自民党の憲法改正草案は、徹頭徹尾、今の憲法の否定です。現憲法は、小学校でも習う3つの原則―“平和主義”“国民主権”“基本的人権の尊重”を、まず前文で高らかに宣言しています。それを全部書き換えるのです。そして、戦争への道を開く9条の改定をする、すなわち「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を削除して、「自衛権」を明記し、国防軍を作り、「集団的自衛権」という名の海外の戦争を認める、という内容です。

3原則すべてをなくすというのですから、ほかにも許しがたい文言が並ぶのですが、私がこの学習会で一番感じたのは、現行憲法に込められた世界の平和と民主主義、人権を勝ち取るための涙と汗を自民党は全く分かっていない、歴史の進歩を全く分かっていないということでした。

藤原先生が読み上げたので改めてその存在を認識したのが、現憲法97条です。あんまり感動したのでそのまま引用します。「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在および将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」!!ああ、自民党に「これが目に入らぬか!!」とつきつけてやりたい!

これは「天賦人権思想」というもので、「人間は生まれながらに自由、平等である」というアメリカ独立戦争、フランス人権宣言などの歴史を経た世界の人権意識の到達点ですが、自民党のQ&Aでは「権利は生まれながらにしてもっているものではなく、国家から与えられたもの」としているのだとか。国家が与えないと言ったら与えられないものとして認識しているというわけです。これひとつとっても、あまたの世界の人民が流した血も涙も認識にないということです。そういう認識では女性の権利条約も子どもの権利条約も、障がい者の権利条約も批准したくないわけです。

「戦争をできるようにしたい」というのも、まさに、国際連合を作ったのは「国際紛争を二度と戦争で解決しない」という世界の決意だったということを、全く認識していないからにほかなりません。そんなこともわかっていないということを世界にさらけ出しているのです。

また、99条は、「憲法は誰が守るものなのか」を規定しています。これも国際社会の到達点をとりいれているものです。憲法を守らなければならないのは「天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」であって、国民は入っていません。これを「立憲主義」というのだそうです。国家権力は時として暴走しやすく、権力者に都合のいいように権力をふるい、国民の権利や自由を侵害してくる。そこで、国民の権利や自由を守るために国家権力を制限しようとすること、なのだそうです。まさにそれが日本の戦前の教訓です。国のために自由どころか生命まで犠牲にし、死ぬことを強要された、その反省がここにはっきりと生かされているのです。これをなんと、「すべて国民はこの憲法を尊重しなければならない」と書くということは、この立憲主義をやめようという、憲法が憲法でなくなるということなのです。

そして96条です。憲法全体は変えられなくても、先に憲法改正のハードルを思いっきり低くして、国会議員の2分の1の賛成があれば発議でき、国民投票は有効投票数の過半数にすると、阿部首相は言い出しました。これではほとんど今の法律とかわりません。消費税ひとつ見ても、今の政権に都合のいい法律がどんどんとおっている国で、憲法も権力に縛りをかけられない、単なる法律の一つになってしまいます。この96条も、立憲主義を守る条項なのです。

どこをとっても、自民党は「憲法とはなにか」がわかっていないことをさらけ出しているのです。いや、わかっていないだけではなくて、とにかく戦前の明治憲法に戻したい。今の憲法を古いといいますが、もっと古い憲法に戻したい。時代錯誤の復古主義にほかならない。人類の歴史の進歩を認めたくないということなのです。

いっぽう、国民はこの機会に「憲法は誰のものか」ということを急速に学びつつあると感じます。私自身もその一人です。有名な改憲論者も入って、「96条の会」を作り、記者会見をした様子が新聞に載っていましたが、その一人、小林節・慶応大学教授は「今回は憲法破壊だ」「この国の民主主義はかなり危ない曲がり角にある」と述べています。世論が沸騰してきています。学んだ国民は強いということを示そう。憲法をちゃんと学んだのはいつでしょうか。中学校以来ではないでしょうか。しかもこんなに人類の歴史をとりこんだ深い意味があるなんておしえてもらえませんでした。今こそ憲法!です。そうだ、今度の集会では、きたがわてつさん(シンガーソングライター)の「憲法前文」をみんなで歌って覚えよう。君が代よりもずっといい。