井口まみ
井口まみ井口まみ

川崎を舞台にしたお芝居を観ました

ooinarukazoku「大いなる家族ー戦後川崎ものがたり」をやっと最終日に観ることができました。「川崎郷土・市民劇」と銘打って上演実行委員会を作り、川崎市と教育委員会も共催団体として作り上げてきた市民劇が、第4回を迎えたのです。

最初から感動!涙!でした。川崎空襲で川崎の市街地が焼け野原になるところから始まります。家族を失い、故郷の沖縄にも帰れなくなってしまい失意のどん底にいる人たちが、おかみが沖縄出身でようやく再建したほったて小屋のような居酒屋「海ぶどう」に集まります。聞きなれた地名が出てきて、今自分がいるこの場所が焼け野原になったのだということを、なんだか初めて実感しました。さらに「帰れないのは沖縄の人たちだけではない。朝鮮から来たものはもっと帰りたいと思っている」という朝鮮出身のおばあさんの言葉は、この町に住んでいる、すぐ隣の人たちのことだと思うと、本当に胸に迫ります。ちょうど、維新の会の橋下氏や、安倍総理が戦争を合理化し肯定する発言をしているときに、「こんな苦しみを合理化できるのか」と問いかけたくなる。これがオープニングでした。

誰が主人公かと言われれば、沖縄の民俗芸能を川崎に根付かせた人たち、朝鮮に帰らず、桜本に焼肉屋さんを建てようと決意した夫婦、民主的な教員になろうとして頑張っている先生たち、川崎の産業を支えるもととなった中小企業の社長さん、みんなこの劇を支える主人公だったと思います。でもやはり一番共感したのは、大浜先生の家族です。新しい憲法を受け入れ、新しい時代に足を踏み出すというのは、それまでの自分の生き方を否定するのだから本当に大変だったのだと思います。でもそれをそれぞれのやりかたで、一生懸命受け入れようとして、家族のきずなを絶やさなかった。今にも通じる、とてもすごいことだったのだと、思います。

いま、憲法が本当に危機にさらされています。私は戦後も60年代の生まれですが、私たちも、そして私たちより下の世代も、この時代の人たちと同じように一生懸命考えなければ、憲法が将来に保証してくれた平和も民主主義も人権も守れないんだということを、いやというほど感じています。この劇は、日本の歴史をあまりにも知らない私たちに、新しい時代を受け入れた人たちの思いを重ねて追体験をさせてくれる。演劇の力、文化の力はすごい、と感じました。

作者の小川信夫先生は、「人は壊れても必ずよみがえる」と述べ、劇中でもそういうセリフを使われています。よみがえるとは、より一層高みに立つことであって、泥沼の中に後戻りすることではない、と受け止めました。川崎の歴史を市民の皆さんといっしょに劇にするという試みは、4回を重ねて本当に厚みのある、豊かな取り組みになっています。作者の小川先生のお力によるものです。さらに川崎に思いを寄せることができる劇を重ねていただくことを切に願うものです。