井口まみ
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障がい者の入所施設「桜の風」を視察しました

sakuranokazeかつて川崎市には中原区井田に、知的障がい者、身体障がい者それぞれに入所施設があり、精神障がい者の生活訓練施設も別にありました。それを1か所に統合した、新しい入所施設がこの4月に完成し、これまでの入所者が新しいところに移っています。その様子を視察しました。

サクラの風かつての施設はほんとに古くて、個室もなかったため、プライバシーも何もあったものではないということが大きな問題になっていました。また、障がい者も地域の中で生活するということが大きな流れになり、自立支援法によって入所施設に入れるのは障害の程度が重い人だけということになりました。こうした制度の変更の中で、川崎の入所施設も新しい在り方を模索することになり、その成果がこの「障害者支援施設 桜の風」だということです。施設はもちろん新しくてきれいで、気持ちよく住めるようにとよく考えられていました。

定員は施設入所が70名、ショートステイが22名です。かつての知的、身体の障害者の入所部分は50名で、これまでの施設から移動してきた方が22名なので、あとは新たに入所できます。また精神障害の生活訓練として20名分のうち、現在8名が入所しています。これから新たに入所できる人がふえるわけですが、入所施設は徐々に慣れることが必要なので、今後少しずつ増やしていくということでした。

施設のコンセプトは「通過型」ということです。どうしても地域では暮らせないという事情のある人もいるが、多くの人は一生施設にいるという生き方ではなく、自分の好きなところで好きなように生きることができるはず。そのための支援をするのがこの場所だというのです。だいたい「地域で生きる」という言葉自体が、健常者には使わないでしょう。これは入所施設で一生生きるということに対する特殊な対義語だ、と施設長は言い切ります。

実は、私のまわりで障がいのあるお子さんを持つ親御さんたちには、様々な意見があります。入所施設に入りたいという待機者は市の統計で300人近くおり、「早く入所施設を作ってほしい」と切望される方、「入所施設は絶対に嫌だ。お金をかけて作る必要はない」といわれる方。そのどちらの意見も聞くのです。この「桜の風」を見て、どう考えればいいのだろうか、とつくづく思いにふけってしまいました。

こうした様々な意見が出る背景には、障害者福祉が今なおあまりに不十分だいうことがあると思います。親も本人も高齢化して、在宅で家族だけで介護するのはとても無理。入所施設に入ることができれば何とか生きることができるけれど、入所施設で本当にその人らしく生きられるのか。職員の手が足りず、十把ひとからげの対応しかしてもらえないのではないか(事実そういう施設の話をいろいろ聞くのです)。入所も在宅もいずれにしても、一人一人の障がい者の生き方に沿った支援、ということができない不十分さが、施設の種別を問わず問題として横たわっているのではないでしょうか。

「桜の風」の施設長が言った言葉がとても印象的でした。「あばれて家じゅうのものを壊してしまう強度の行動障害の方もいます。でも、暴れるのには必ず理由がある。それがわかればのべつ幕なし暴れているわけではない。コミュニケーションが取れるかどうか、そのスキルと余裕が問われるのではないか」。その通りだと思います。だとすればそれだけの余裕が持てる職員配置が当然問われる。どんな障害者も、その人の願いにかなった生き方を保障する。そのためにどれだけこの福祉に力を入れるかという問題なのだと、強く思いました。