井口まみ
井口まみ井口まみ

高津区の南武朝鮮初級学校を視察。涙が止まりませんでした。そのわけは…

P1110086福田市長は自民党の代表質問への答弁で、本年度の朝鮮学校への補助金交付を行わないと表明しました。この補助金は、川崎区と高津区の2校の朝鮮学校に対し、教材費、職員の研修費、授業料への月6千円の補助など年間約840万円です。前市長のころから、北朝鮮の拉致問題を理由に、くりかえし補助金廃止の質問が繰り返されてきましたが、前市長のときには「子どもには関係ない」と補助金は継続されてきました。しかし、福田市長はばっさりと予算執行を停止したのです。この補助金は川崎市独自の施策であるのに、「県が補助金をやめたから」というのです。この影響について直接うかがおうと、市内の朝鮮学校を訪問しました。

高津区の南武朝鮮初級学校は溝の口駅のそばにあります。幼稚部は4年保育で15人、初級部は1年生から6年生まで34人が通っています。開設は1946年11月。67年の歴史を数え、今の1年生が卒業するときに卒業生はちょうど1000人になるそうです。県は今年2月に突然4月からの補助金の廃止を発表。学校の経費の25%がなくなるという中で、父母やOBらに緊急に訴えて今年の必要経費を何とか確保したのに、今この時期になって、予算で見込んでいた川崎市の補助金がこなかったら、「もう学校は立ち行かない」と、ほんとうに切実な説明がありました。経費の8割は人件費。先生たちの給与もままなりません。トイレが壊れても直せない。学費もかかりますが、いまの経済状況では市の補助分をあらたに父母負担にできるのか。OBや同胞の方たちにさらに寄付をお願いするのか。「本当にせっぱつまっている」といいます。

日本共産党市会議員団が視察に行くということを知り、10人を超える父母やおばあさん、在日の同胞の方たちが集まってくれました。そして「この学校は絶対になくしてはいけない」「何としても存続させたい」と口々に訴えられるのです。

この学校は、1945年、祖国が解放され、強制連行された人たちも含め、いずれ祖国に帰る日までに子どもたちに“奪われたことばと文化”を伝えるためにと始まりました。しかし帰るところがなくなった人や、自らの意思で日本で生きようと思った人たちも、祖国は朝鮮であることを忘れず、その言葉と誇りを子どもたちに伝えようと、この学校を維持してきました。しかしこの60年余、いわれのない差別を受け続け、苦労の連続だったといいます。いまも、子どもたちの登下校の安全すら脅かされており、「テレビで朝鮮学校への補助金を打ち切られたという報道を見て子どもたちは本当に胸を痛めている。子どもたちをいじめないでほしい」「目の前に子どもが二人いても、日本人にしかパンをあげないと同じだ」という声も上がりました。

「中華学校やアメリカンスクールではこんな差別はないでしょう。なぜ朝鮮学校だけなのか」「もし海外の日本人学校でこういうことが起きたらどう思うのですか」。まっとうな問いかけが続きます。「私たちには脈々と民族の血が流れています。それを受け継いでいきたいと心から願って、この学校を支えています。日本では民族の誇りを認め、共生していくということが許されないのでしょうか」。そしてこの怒りの根底に、朝鮮に対する日本の仕打ちが反省されていないという問題があります。なぜ日本には朝鮮から来た人が多いのか。戦前、戦中、植民地にしたからです。先祖伝来の名前を変えさせ、朝鮮語を話すことを禁じ、文化を強制的に忘れさせ、そして日本で安い労働力として使ってきました。これほど民族の誇りを傷つけることはありません。もし日本でこのことをまっとうに反省して、ドイツのように日本人なら誰もがこの反省を胸に刻んできたならば、朝鮮学校だけを差別するということはありえない。まして、同じこの町に住んでいる子どもたちの学校がなくなるなんてことを平気でやれるはずがない。お母さんたちの訴えはどれもが胸を揺さぶりました。

とにかく恥ずかしかったのです。そんなことを平気でやる市長がいることが。植民地支配をしてきた戦犯政治を平気で受け継いでいる日本の権力者がいることが。それを変えられない自分の非力さが。もし自分がよその国で暮らすことになったら、やっぱり子どもは日本人のアイデンティティーを確立するために日本語学校に通わせるでしょう。そのときに、日本人を差別して学校の存在を否定されたら、親としてどうするか。子どもたちを思う気持ちはどこの国の母親であっても同じです。同じ町に住んでいる子どもたちが、行きたい学校に行けない。学校の行きかえりも怖い。自分の祖国のことを誇りに思うことが攻撃の対象になる。そんな国であることが悔しくて、涙が止まらなくなったのです。

P1110056話を戻しましょう。とにかく理屈は前の市長のほうがずっとまっとうです。子どもたちには関係ないのです。日本に住む子どもたちの学習権は公立だろうが私学だろうが、外国語による学校だろうが、同じように保障するのが政治の姿です。福田市長はただちに補助金の支出を執行すべきです。強くつよく求めていきます。