井口まみ
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第60回稲田つつみ寄席、開催!!

「新宿や浅草に行かなくても落語に親しみたい」と28年前に始まった「稲田つつみ寄席」。JR南武線の稲田堤駅そばの会館で始めたからこの名があります。今はお隣の駅の中野島で、年に2回公演を行い、今回で60回目を迎えました。それを記念して、ちょっと大きな会場を借りて、時間も拡大して開催しました。

場所は川崎市立アートセンター。200席のちょうどいいホールです。出演者もいつもは4人ですが、今回は6人。いつもは70人くらいでこじんまりとやっているのですが、大きな会場で力が入り、140人の方にお越しいただきました。

たか治ネットで再現してみましょう。前座は桂たか治さん。演目は「牛ほめ」です。前座さんはほんとにたいへんです。楽屋で先輩たちの支度を手伝い、舞台では出演者が出るたびにめくりをめくって、座布団をひっくり返して、そして自分もしゃべるのです。4年間この修業が続きます。「牛ほめ」は、あんまり頭の回転が速くない与太郎が、お父さんに教えられて新築の家をほめ、次に牛をほめるんだけど、とんちんかんでわけのわからない話になる。似た言葉で全然違う話になってしまう言葉のやり取りが面白い噺です。たか治さん、一生懸命がよく伝わりました。

昇々二つ目の春風亭昇々さんは、「産まれる!」。新作ですね。子どもが3月31日に生まれるか、4月1日に生まれるかの瀬戸際。あと1時間待てば早生まれではなく遅生まれになると頑張るお母さん(ほんとは4月1日まで早生まれです)。独身なのに、妊婦さんの苦悩をよくがんばりました。でも、これ、だれに稽古つけてもらったんだろう。師匠は昇太ですからねえ。

小痴楽柳亭小痴楽さんは「真田小僧」。つつみ寄席出演も4回目となる小痴楽さん。はじめて前座で来たころは18歳でほんとにかわいかったのですが、すっかりイケメン落語家になりました。オールドファンから「立派になったなあ」と声がかかります。真田小僧は難しい言葉がポンポン出て、こまっしゃくれた息子と、おたおたするお父さんの掛け合いをテンポよくしなければなりません。小痴楽さん、うまかったよ!!

傳枝春風亭傳枝さんは「壺算」。何度も聞いているんですけど、これは聞けば聞くほどわからなくなる噺です。えっと、弟分に頼まれて2荷(か)の水ガメを買いに行くのに、いかに安くせしめるかと考えた兄貴。まず1荷のカメを3円に値切って買いました。途中で「ほんとは2荷のがほしいんだってよ」と引き返してくる。で、2荷のカメを6円に値切っておいて、「さっき買った1荷のカメを下取ってくれるかい」。それが3円だね。「さっき払った3円と、このカメが3円で下取ってくれるんだから合わせて6円だよね」。道具やの番頭は、おかしいってことはわかるんだけど、何が違うのかわからない。私もよくわからない。なんで3円で買えるんだ~??

味千代鏡味味千代さんの太神楽は、いつもより舞台が広いので、大技も出て、拍手喝采でした。味千代さんも3回目。終わったあとで「いつも見ていただいている方たちばかりだから、同じ芸では前進がないって言われそうで、なにかやろうと頑張ったの」と話していました。あごに載せた茶碗と、鍬のうえに乗せて振り回した茶碗、蛇の目傘のうえでぐるぐる回した茶碗は、微妙に重さが違って、間違って違う茶碗を使ってしまうと、うまくいかないのだそうです。プロはすごいなあ。

文治トリは桂文治師匠。つつみ寄席は10回目!!ネタは「肥えがめ」と、ポピュラーなものですが、前の人たちの噺を取り入れ、飽きさせません。表情といい間といい、さすが!という感じです。こういう寄席では、何をしゃべるのかは、その場で決めるのです。前に前座さんやふたつめさんが何をしゃべったのか聞いていて、高座に上がってお客さんがどんな感じか見て、枕をしゃべっている間に決めるのだそうです。だいたい、ほかの人とかぶらないような演目をやるのが普通だと聞いているのですが、「肥えがめ」が始まったとき、新築祝いに行くのは「牛ほめ」とかぶるし、カメを買いに行くのは「壺算」とかぶるし、あら、なんで、と思いました。それをちゃっかり笑いに取り込んでいくんです。みんな、全部一生懸命聞いていたから、みんなで「そうそう、さっき聞いたよね」といっしょに笑えます。うまいなあ。

どの人もほんとにおもしろくて、あっという間に3時間近い時間が過ぎていきました。来ていただいた方たちも口々に「おもしろかった」「こんなに笑ったのは久しぶり」と声をかけていただいて、、主催者冥利に尽きます。今回は60回記念なので、パンフレットも作り、記念品も出しました。5年に1回の豪華サービスです。

井口 寄席寄席で主催者がしゃべるのは異例ですが、この寄席の宣伝をしたかったので私もちょっと話させてもらいました。スポンサーのいないこの寄席は、お客さんに来てもらわなければなりたたないんです、という話をしました。皆さん、次回も来てね。