井口まみ
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登戸研究所を知っていますか

IMG_2970[1]川崎市多摩区東三田、明治大学生田キャンパスの中に、「明治大学平和教育登戸研究所資料館」という建物があります。よくぞ作ってくれたと思う、資料館です。2010年、オープンしたときに一度見学しましたが、ちゃんとみんなで見学しようと議員団で見学会を持ちました。こんなに近くに住んでいるのに、私は初めて保存の会の方の説明をきき、衝撃的でした。

「陸軍登戸研究所」は、一言で言って「秘密戦のための兵器、資材を研究開発するための施設」です。旧日本軍が、電波兵器を開発したり(この時には兵器としては成功しませんでしたが、のちに電子レンジの開発につながったことは有名だそうです)、生物兵器の研究、偽札、偽造パスポートの印刷、そして風船爆弾の開発を秘密裏に行ったところで、戦争遺跡の中で秘密戦の研究所とわかっているというのはここだけ。そのはずです。秘密だからこそ、ここがどういうところかは一般の人には秘密にされ、終戦直後、資料はすべて廃棄され、そこで働いた人たちは絶対に喋ってはいけないときつく指示されていたのです。

それがたくさんの資料が発見され、たくさんの人たちが証言をし、この研究所の全容が明らかになりました。明治大学はこの登戸研究所の敷地の一部を取得して、その建物をほとんど活用して開校したため、当時唯一の鉄筋の建物だったところをこの資料館として活用することにしました。設立趣旨にはこう書かれています。

IMG_3109[1]「登戸研究所の研究内容やそこで開発された兵器・資材などは、時には人道上あるいは国際法規上、大きな問題を有するものも含まれています。しかし、私たちはこうした戦争の暗部ともいえる部分を直視し、戦争の本質や戦前の日本軍がおこなってきた諸活動の一端を、冷静に後世に語り継いでいく必要があると思っています。それは、私たち大学と同じ科学研究にあたる場が、戦争という目的のためには、場合によっては尋常な理性と人間性を喪失してしまいかねない機能をもってしまうことを強く自戒するためでもあります。」

この全貌が明らかになったのは、この研究所の中枢にいた伴繁雄という人が、数十年の沈黙を破って、その記憶をしゃべったことにあります。登戸研究所は終戦間際、天皇を松代大本営に移すことに伴って長野県に移転します。そこで終戦を迎えた伴少佐はそのまま長野県に残りますが、戦争体験の聞き取りに取り組んでいた地元の高校生に、その体験を話し出すのです。大人には絶対に喋らなかった自分の過去を、若い人たちに語ることにした、その思いはいかばかりだったでしょうか。のちに伴氏の妻は「それまでは氷のような表情だった夫が、ようやく人間の顔になった」と述懐していたそうです。

IMG_2958[1]見学ではまず「動物慰霊碑」という大きな碑を見せてくれます。これは登戸研究所の所長が陸軍大臣の東条英機から表彰された際の副賞のお金で建てたことがわかっています。登戸研究所で研究開発した毒薬で人体実験を行ったことを伴氏がある裁判で証言しました。つなげて考えれば、研究しているときからやっていた人体実験の慰霊のつもりで建てたに違いない、という説明です。まず最初から生々しい話に驚きます。

学内にはいくつもの研究所の痕跡があり、丁寧に説明してくれます。そして館内では、電波兵器やスパイの道具など、なんだかテレビドラマに出てきそうな話がとびかいます。分かりやすい展示で、よくあつめたなあ、よく調べたなあ、とおどろくことばかりです。

そして、風船爆弾。実物は直径約10メートル。和紙をこんにゃくのノリで何枚も張り合わせ、アメリカ本土に向けて放ちます。「最終決戦兵器」として、たくさんの学生が動員されたそうです。9000個飛ばし、アメリカ本土には1000個は着弾したそうです。このためにジェット気流の存在も研究されました。本当はこの爆弾に牛の病原菌を乗せるはずでした。そのために、牛の病気のワクチンを研究していた優秀な学者を無理やり連れてきて、ワクチンではなく、爆弾に乗せるために乾燥させ、ものすごい温度差にも耐えられる病原菌の開発をすることに転向させた。生物兵器はこの時すでに国際法違反で、さすがに戦争末期で、国際法廷にかけられる可能性は認識していたようで実際には風船爆弾はただの爆発物だけを積んでいたようですが、戦争というのは科学技術をこういうことのために使ってしまうのだとつくづく思いました。

これはぜひたくさんの方に見てほしい。見るだけでなく語り部の皆さんの話をぜひ聞いてほしいと思います。

明治大学のホームページはこちら。館長やずっと保存活動に取り組んでこられた渡辺賢二先生の案内が月2回ほどあるようです。

http://www.meiji.ac.jp/noborito/index.html

保存の会のホームページはこちら。毎月見学会を開催されています。まとまった人数ならそれ以外でも対応してくれるようです。

http://www.geocities.jp/noboritokenkyujo/index.html