井口まみ
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くらしの相談センター9周年の学習会を開催――精神障がいについて学びました

IMG_1856[1]9月28日、私が所長をしている「くらしの相談センター 多摩」が開設9周年記念の学習会を開催しました。テーマは「こころ からだ くらし――精神障がいの理解と地域生活支援」。精神科医の野末浩之先生をお招きしました。

IMG_1859[1]相談センターを開設して9年間、1300人以上の方にご利用いただきましたが、精神障がいをめぐる相談が年々増加しています。私たちにはスキルがないので、どう対応していいのか迷うことがしばしばです。2年前から野末先生に講演をお願いしていましたが、なかなか時間が合わず、ようやく実現しました。多摩区近辺にご案内したところ、ご家族のことで悩んでいる方や、ボランティアをされている方など45人が来てくださいました。ほんとうに勉強になりました。

野末先生は、そもそも精神障がいの本質は「生活のしづらさ」だと言われました。多くの精神疾患は体の機能の一部に変化があるもので、いまは薬で抑えたりすることはできる。でも、完治することが難しく、まわりとうまくコミュニケーションが取れないなど社会生活に支障をきたし、それを放置しておくと、失敗体験が積み重なり、生きていく意欲を失い、いっそう悪化するという悪循環になる、これが、悪のスパイラルになるというのです。この循環を断ち切って、ちょっとまわりの手助けを借りて、生きていることが楽になればいい、のです。これは病院ではできないことです。社会の中にいて、生きづらさを伝えられる人がいて、それを手助けする仕組みがある。社会の中にこそ精神障がいの人たちが暮らせる手段があるというのです。

野末先生は100年前の学者の言葉を紹介しました。オイゲン・ブロイラーというドイツの学者が「精神病的な症状や生活の中に、あるいはその背後に健全な精神が隠されている」「精神病エピソードが回復すると、もとの人格発達過程に回帰する」「治療には…精神的疾患を持たない人々と同様に尊敬していることを患者が感じ取れるようでなければならない」と述べ、精神科のお医者さんはこれを学ぶのだそうです。相談や治療に来た人に「よく頑張ってここに来ましたね。たいへんでしたね」という尊敬の気持ちを持つ、それを表す。これが相談センターが最も学ぶべきこと、かなめともいうべきことでした。

統合失調症やうつ病、依存症などの特徴や対応の仕方も教えていただきましたが、家族や相談を受けた人も悩みが尽きません。どうやったら病院に行ってもらえるか、病院から帰ってきたらどうしたらいいのか。そんな疑問にも答えていただきました。質問コーナーでは、「川崎市内にグループホームが少なくて困っている」という市政への意見もいただきました。

ここでは再現しきれないので、本にしていただくこともお願いしました。でも、こんなに精神障がいが社会の問題になっている背景は、私はぜったいにいまの社会のありかたに問題があるからだと思います。ちょっと仕事ができない、学校の勉強についてこない、というだけでレッテルを貼り追い出そうとする。寛容さがない。それを政治が追い立てる。非正規労働を拡大し、リストラをすればその企業に税金をまけてやる労働環境、小学校から学力テストで競わせる教育。こんな社会を変えないと、病を抱える人は増える一方なのでは、とつよく思います。政治を変えることはここでも求められていることを実感した学習会でした。