井口まみ
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貧困の連鎖を断ち切るために

untitled生活保護問題議員研修会の特別講演で学んだ埼玉県の「生活保護受給者チャレンジ支援事業」=アスポート事業。とりわけ学習支援の取り組みが本当に感動的です。折よく研修会がさいたま市で開催されたので、議員団としてこの事業の実施主体である埼玉県にも視察に行って話を聞くことができました。

アスポート事業は、生活保護を利用している人たちを「教育」「就労」「住宅」の3つの分野で支援するというものです。そのなかで教育は「貧困の連鎖を断ち切る」という目的で行われています。ある調査では生活保護を受けて育った子どもが大人になってふたたび生活保護を受ける率が25・1%に上るとされています。少なくとも高校卒業でなければ圧倒的に就職は不利です。せめて高校に進学し自らの進路を自らで選べれば、貧困から抜け出す可能性が大きく広がります。しかし、教育には本当にお金がかかるため、お金がなければ進学できないのです。このアスポート事業を始める前の生活保護世帯の子どもたちの高校進学率は、埼玉県で86・9%。全県の平均よりも13%も低かったといいます。この悪循環を断ち切り、どの子にも未来を切り開く機会を。それがこの事業の目的です。

実際の教育支援は、生活保護世帯の中学生を対象に週2、3回の学習教室に来てもらい、マンツーマンで分からないところを教えるというものです。今年度は全県で17か所。470人の子供たちが通ってきています。特別養護老人ホームを借りているというのが、ナイスアイディア!しかし簡単に集まるわけではありません。まず教育支援員は家庭訪問から始めます。高校進学への支援が必要だと思われるのは、およそ1000人。全中学生の半分になるそうです。行ってみるとかなりの率で不登校になっている。なかには、もう何年も家から出たこともないとか、お金がかかるので電車に乗ったことがなく、切符の買い方もわからない子どももいるそうです。「高校に行きたいかい?一緒に勉強しよう」と繰り返し訪問するのです。必ず出る質問は「お金がかかるんですか」。この事業は交通費も含めて一切無料です。それで安心して参加するそうです。写真はこの事業のチラシです。

ここに来ればわからないことはわからないと言っていい。わかるまで教えてくれ、ばかにされない。友達ができる。それが魅力だといいます。今年で3年目ですが、1年目からこの学習教室に来た子のほとんどが高校に進学しました。なかには受験直前の1月から来はじめて、足し算の繰上りがわからなかったところから、3月合格まで頑張った子の話も聞きました。涙なしには聞けませんでした。

事業の目的としては生活保護の利用者の自立をうながすものですが、これは生活保護世帯だけの問題ではなく、今の子どもたちの抱える問題を解決する方向性を示していると思います。と同時に、なにより感じたのは、生活保護世帯の子どもたちを見つめる行政の皆さんのあたたかさでした。やる気になればこういうこともできるのだということを強く思った一日でした。