井口まみ
井口まみ井口まみ

福祉施設を作るということーこどもも高齢者も障がい者も

市内の施設をいくつも視察にまわっています。中原区の高齢者の施設「なかはら看護小規模多機能ホーム」とサービス付き高齢者住宅、障がい者通所施設「こぶし園」、母子生活支援施設、こども心理ケアセンター「かなで」。どれもそれぞれの課題があり、解決しなければならない問題をたくさんうかがってきましたが、共通して思うのは、福祉施設は、建物さえ作ればすむというわけではなく、そこにかかわる人たちが、利用者とこころをかよわせて、いっしょに心地よく生活するための努力が必要で、そこにこそ手厚い支援が必要だということでした。

小規模多機能看護小規模多機能ホームというのは、介護保険制度の中の一つの事業で、デイサービスやショートステイ、訪問介護のうえにさらに訪問看護も行う事業所です。看護師が常駐するため、医療行為の必要な人もショートステイやデイサービスが利用でき、必要な時には訪問介護も看護も受けられるので、とてもニーズはあると思うのですが、医療行為の必要な人を迎えるためにはそれだけの職員の配置も必要で、事業所としては運営がたいへんで手が出しにくいとのこと。これから医療と介護が同時進行で必要になる人がどんどん増えるでしょう。初めから運営が大変だという制度では身近に増えるはずがない。

IMG_5404[1]なかはら看護小規模多機能ホームの2階に併設されているサービス付き高齢者住宅は、1階にデイサービスがあり、川崎医療生協の病院とも提携しているのでとても安心して暮らせる仕組みになっています。家賃をなんとか生活保護でも暮らせるようにしているとのことでしたが、それでも月2,3万円しか残らず、食費で終わってしまうので、もっと安くできないかと言われていました。いま、私は何人か高齢者の引っ越し先を探しているのですが、高齢者が引っ越せるアパートは本当にありません。完全にバリアフリーで、日中だけとはいえ見守りの人がいて、ここならほんとに安心だと思うのですが、そこに家賃補助があればどんなにいいか。

障がい者の通所施設「こぶし園」は、重度重複障がい者が通うことができる作業所でした。開設25周年。ほとんど寝たきりの状態でも、外部の働きかけで成長し、自己表現ができる。その力を生かして押し花をしたり、紙すきをする支援をスタッフが行っています。すごいなあと思ったのは、利用者もスタッフもとても楽しそうだったことです。時間をかけて信頼関係を作り、一人一人の状況に合わせて対応することができているからにほかなりません。築25年であちこちに不具合が起き、直してほしいところがたくさんある。大雨が降ると床上浸水もあった、という話に、私たちの役割も大きいと思いました。

川崎市母子生活支援施設は、今年4月に指定管理者が替わり、川崎市では初めての法人が運営しています。母子家庭になった母と子が、何らかの理由で援助なしには生活できない状況になったとき、しっかり自立するまで支援してくれる施設ですが、生活できなくなった理由や状況はまさに千差万別。それを批判するのではなく、受け入れて、その人にあった支援をするにはかなりのノウハウと専門知識が必要です。新しい法人がその力を持っている印象を受けとりあえず安心しましたが、床板が腐って畳がべこべこ沈むような施設では、「家庭のような温かさのある施設」にはできない、という施設長さんの嘆きをしっかりと受け止めてきました。

IMG_5408[1]川崎こども心理ケアセンター「かなで」はこの10月にオープンしたばかりの新しい施設です。児童福祉法では「情緒障害児短期治療施設」というものだそうで、全国で40か所程度しかありません。知的障がいはないようなのに、なんとなくクラスに居場所がない、学校に通えない。そんな子どもたちのための入所施設です。今この施設がクローズアップされているのは、虐待を受けたこどもたちの精神的な障がいがこの範疇に当たり、特に専門的な対応が求められているからなのだそうです。横浜市でこの施設を運営して実績のある法人が運営します。入所施設と小中学校の分校を併設し、集中的に子どもたちをケアできる環境で、施設の設計も本当によく考えられていました。ここは先の母子生活支援施設に少しおすそ分けしてあげたいくらい新しくてきれいですが、幼児から高校生までの入所を受け入れる(現在はまだいませんが)とのことで、本当に専門的で献身的な対応が求められると思います。それだけの人件費をしっかり手当てしなければ、人がどんどん入れ替わるような施設にはできない、と思いました。

どの施設も民間の団体の皆さんが献身的に運営しています。もちろん専門的な訓練を積んできた人たちの集団なのですからお任せしていいのですが、福祉の事業を行う主体である自治体、川崎市が、その専門性や事業の実態をわが身のこととして理解し、把握し、何か必要なことがあればすぐ手当てをする、そういう関係になっているかというと、けっしてそうではないのではないか。施設の皆さんのお話の端々から、市はよくつかみもしないでただ予算を削っているという感じが、どこに行ってもぬぐえませんでした。この実態をしっかりつかんで返していくのが私たちの仕事だとつくづく思った視察でした。